9)新しい情報化のモデル−「はりまマルチメディアスク−ル」からの創造−
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「はりまマルチメディアスク−ル」は、幸いにも多くの参加をいただき、今後西播
磨地域の情報化にとって実り多い事業となりました。しかし、この事業の成果は実施し
た内容だけでなく、事業の進め方やプロセスに即して評価することが重要です。それは
要約すれば、この取り組みを通じて、市民と行政とのパ−トナ−シップによる地域の情
報化の新しいモデルを示すことができたということです。
この事業は、最初から兵庫県がこのような企画をたてていたものではありませんでし
た。実施に至るまでには、さまざまな立場の市民や団体からの提案があり、多くの議論
や試行錯誤が積み重ねられてきたものなのです。こうした取り組みは、西播磨地域だけ
でなく、今後、各地域で進められる情報化の推進に参考になると考えます。
そこで、さまざまな団体や人々の力のつながりによって実施した「はりまマルチメデ
ィアスク−ル」の歩みを報告し、今後の地域情報化の課題や展望を示しておきたいと思
います。
1.産・官・学・民のネットワ−クの構築をめざして
(1)「はりまマルチメディアスク−ル」のコンセプト
播磨科学公園都市の開発を進めてきた兵庫県企業庁では、まちびらきイベントの
一環として、当初はマルチメディア機器の展示を行う「マルチメディア体験コーナ
ー」の設置を検討していました。その企画は、県知事公室審議員(情報通信担当)
が担当しましたが、長期の展示は企業の協力が見込めないこと、また、展示だけで
は地域の情報化を推進するための起爆剤にはなりにくいと考えていました。
そこで、地元のはりまインターネット研究会の協力を得るため、同研究会の和崎
事務局長などを交えて企画案を練り直した結果、「マルチメディア体験コーナー」
は誰でもがインターネットを自由に利用する場として設置する、また、地域のさま
ざまな人々が楽しみながら情報通信の活用を学ぶセミナーの実施や次代の地域を担
うこどもたちの情報発信を支援する「はりまこども風土記」もあわせて実施するこ
ととしました。こうした事業の総称を「はりまマルチメディアスク−ル」〔注リン
ク http://www.harima.or.jp/ 〕と名付け、その目標は情報化を推進するための産
・官・学・民のネットワ−クづくりとしたのです。
(2)市民と行政、団体との共同
ア.「はりまインタ−ネット研究会」
各種セミナーの研修カリキュラムや「はりまこども風土記」の企画は、はりまイ
ンターネット研究会の和崎事務局長からの提案をもとに具体的な検討を進めました。
また、運営については研究会のメンバーがボランティアとして参加することにとな
りました。
このはりまインタ−ネット研究会〔注リンクhttp://www.memenet.or.jp/hir/ 〕
とは、インターネットの活用を通じて播磨の新しいまちづくりを進めるために、地
域の企業、行政、大学などさまざまな立場の市民から構成される団体です。研究会
は平成8年4月に発足したところでしたが、さまざまなメンバーが互いに協力しなが
ら、自発的な活動を進め、今回の事業で不可欠な役割を果たしたのです。
イ.「はりまこども風土記−わんぱくちびっこ情報団」
「はりまこども風土記」は、西播磨地域のすべての小学校約170校を対象に公募
し、50の小学校の情報化を支援しようとした事業です。県としても実施できれば大
きな意味があると考えていましたが、学校にインターネットが普及していないなか
で、はたして50校も参加するのだろうか、先生方はデジタルカメラの操作やホ−ム
ページの作成ができるのだろうか、という心配がありました。
こうしたなかで、姫路青年会議所(JC)をはじめ地元の5つのJCでは、互いに
連携してまちびらきイベントに取り組もうという機運が高まっていました。その結果、
5JC共同事業としてこの風土記に取り組む体制が出来たのです。
学校への周知や参画の呼びかけ、参加校の取りまとめはJCが担当し、デジタルカ
メラの研修やホ−ムペ−ジの作成は、インタ−ネット研究会のメンバ−が支援・協
力体制を組むことにしました。また、県教育委員会西播磨教育事務所も学校への参
加協力などの支援を行うことになったのです。
さらに、このCD-ROMの作成を契機に、ホームページの英訳についてもボラン
ティアで進めようという機運が盛り上がり、研究会のメンバ−である塩飽康正氏を
中心に多数のボランティアが協力して英訳ホームページを完成させたのです。
ウ.広帯域ISDN(B-ISDN)利用実験
県では、これまで播磨科学公園都市でB-ISDNの利用実験を実施しており、まちび
らきのなかでも双方向の映像による遠隔セミナ−の実施を検討していました。
そこで、この実験もスクールの事業の一つに組み込み、大阪産業大学からの遠隔
セミナーや京都府の園部小学校と公園都市内の播磨高原東小学校との間で小学生ど
うしの遠隔交流を行ったのです。
これらの実験主体は、兵庫B-ISDN実験協議会(事務局:県審議員(情報通信担当))
ですが、企画・運営には新世代通信網実験協議会(BBCC)〔注リンクhttp://www.
bbcc.or.jp/〕の教育システムのプロジェクトや園部町の関係者から多くの協力と支
援を受けました。
エ.兵庫ニューメディア推進協議会
県域の情報化の推進団体である兵庫ニューメディア推進協議会〔注リンクhttp:
//www.hyogo-iic.ne.jp/-newmedia/ 〕では、地域情報化策専門部会を設置し、地域
の団体や自治体と共同して情報化の推進方策の調査研究活動を進めています。
この部会では、前年度に引き続き、西播磨地域の自治体や商工団体とともに情報
化の進め方について検討しており、このスクールの全体事業として実施した入学式
や文化祭においても、今後の情報化の進め方についてさまざまな視点から議論を行
いました。
オ.事業の総合調整と統括
兵庫県は、さまざまな関係団体によるこれらの事業について、広報や周知、参加
・協力の呼びかけ、全体事業である入学式・文化祭の実施、B-ISDN利用実験の実施、
事業費の措置など総合調整を行い、統括する責任者としての役割を担当しました。
2 「はりまマルチメディアスク−ル」を支えたネットワ−ク
(1)メ−リングリスト
インタ−ネットの機能の一つにメーリングリストがある。これは、ある特定のア
ドレスに電子メールを送れば、あらかじめ登録されたメンバーに瞬時にそのメ−ル
が届くという仕組みのことです。
今回の事業のように、各地域に分散している参加者が、走りながら考え、互いに
協力しながら企画・運営を進めていくためには、いつでも、どこでも連絡を取り合
える仕組みが不可欠です。
はりまインタ−ネット研究会では、会員の情報交流の場としてメーリングリスト
が有効に活用されていますが、この事業でもインフォミーム社の協力により、専用
のメ−リングリスト”mms”が設置され、事業のスムーズな運営に大きく貢献した
のです。
(2)人と人とのコミュニケ−ション
この”mms”には、研究会や県などの関係者のほか、西播磨教育事務所、BBCC、
NTTなどの協力者、ホ−ムペ−ジの作成や英訳に協力したボランティア、さらには
風土記に参加した学校の先生方など多数の人々が参加しました。
こうした人々が、互いに意見や提案を出し合ったり、応援や協力を求め合ったり、
あるいは励ましや批判なども交えながら、同じ共通の目標をめざしてコミュニケ−シ
ョンを深めてきたのです。
私たちは情報化を進めるためには、産・官・学・民のネットワ−クが大切だという
ところから今回の事業に取り組みました。そうしたネットワ−クのモデルが、実はこ
の”mms”であったように思います。
3 「はりまこども風土記」とは何か
今回の中心的な事業である「はりまこども風土記」については、既に報告したとお
りですが、先生方からいくつかの指摘がありました。ここで、あらためて事業の趣旨
や経緯を記しておきます。
(1)情報教育の課題
その一つは、「コンセプトが徹底しておらず、地域の情報ではなく、学校の紹介
に止まっている作品がある」という指摘です。確かに、「こどもたちによる地域の
情報発信」という説明が不十分だったり、学校での作業の時間的な余裕も十分でな
かったのかもしれません。
しかし、ここで強調しておきたいことは、この事業はサブタイトルに「わんぱく
ちびっこ情報団」と掲げたように、作成されたコンテントそのものよりも、こども
たちの自由な活動を重視した、ということです。
もちろん、どんな作品であっても、そこには誰に何を伝えたいかが明記されてい
なければなりません。しかし、こどもたちの発見や感動が伝わっていない作品があ
ったとしても、それは取り組んだこどもたちと先生自身が考える問題ではないでし
ょうか。こどもたちは「こういう表現をしたらよかった」、先生は「こどもたちに
こういう指導をすればよかった」と考えることこそ、情報教育の重要なテーマであ
ると思います。
一方で、「他校のホームページを参考にしていい勉強になった。もっといいもの
にしていきたい。そのために校区のことをよく知る必要がある」、「誰がこのホー
ムページを読むのだろうか、発信すべき内容は何なのか、発信してはならないもの
は何なのか」というコメントも寄せられました。これらのコメントは、私たちが情
報化で何をめざしていくのか、今後の取り組みに貴重な示唆を与えています。
(2)情報発信と個人情報の保護
ア.ホームページの発信
ホームページの作成は、ボランティアが支援するため、そのマンパワーとスケジ
ュールを考えれば、デジタルカメラの画像は5枚程度にしてほしい、と学校に説明し
ていましたが、完成してみると枚数に相当の開きがあることがわかり、一部の先生
からは不公平だという指摘が寄せられました。
これは、実際にホームページの作業に入った段階で学校の熱意とボランティアの
意欲が盛り上がったため、5枚程度という当初の約束に従った学校の方がむしろ少な
いという結果になったものです。言い換えれば、それだけ学校やボランティアたち
の自発性が発揮されたのです。
指摘のあった学校にはこうした経緯について理解を求めましたが、県で作業の途
中で各校の状況を確認し、その状況に応じた方針を示すべきであったと思います。
イ.個人情報の保護
自治体のなかでは、個人情報保護条例によりインターネットによる情報発信を認
めていないところがあります。今回参加した学校からも個人情報保護条例との整理
が必要だという指摘がありました。
県でも、平成9年度から個人情報保護条例を施行し、インターネットでの情報発
信については、審議会の承認を得て行うこととされています。このため、県教育委員
会では県立学校からの情報発信について、個人情報の発信は必要性がある場合に限
る、その場合本人の了解をとるなどの方針を示し、平成10年1月に審議会の承認
を受けましたが、こうした問題は今後の情報社会のあり方を考えるうえで重要な課
題となっています。
4 おわりに
「はりまマルチメディアスク−ル」は、ネットディの報告にもあるように、市民の
力により学校の情報化を支援する取り組みへと広がりつつあります。こうした展開は
当初の時点では全く予期していなかったことです。今回の取り組みは、地域の情報化
はまずできるところから実践することがいかに大事なことか、また、市民と行政が協
力すれば大きな可能性が開かれるということも明らかにしたのです。
福崎小学校の松本先生によると、今回の風土記に参加したことがきっかけとなって
学校にインターネットが導入されたということです。このことも予想しなかっ嬉し
い成果です。今後、国や自治体でもすべての学校にインターネットの利用環境を整備
するなど学校の情報化を積極的に進めることが求められています。
このことは単に学校のなかの情報化に止まることではありません。阪神・淡路大震
災から、私たちは学校が防災の拠点として、さらには地域のコミュニティの拠点とし
ての役割を担うことが重要だという教訓を得たのです。学校の情報化から地域の情報
化へ。その取り組みは始まったばかりです。
最後に、この事業に参加された多くの人々、事業の推進に惜しまない協力をいただ
きました関係者、ボランティアの皆様方に深く感謝申し上げます。